SHORT STORY 過去に捧げたものたち

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 カレイドスコォプ-1
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 食事を終えた帰り路。
 生々しい、血の匂いに誘われるがまま森の奥。
 一匹の狼と遇った。
 闇の中に溶け込む、漆黒の毛並み。匂いの元と同じ、禍々しい色に染まる満月の、その僅かな月燈かりから逃れるように、息を潜める獰猛な獣。
 鋭い眼光だけが、闇に呑み込まれずにいる。
 浅く繰り返される息。
 手負い……か。
 放っておけば、致命傷にも繋がりかねない、深い傷を負っている。
「……おい、お前、大丈夫かよ。」
 軽い気持ちで手を伸ばしてしまった。
 つい。
 自分でも信じられないくらい、手負いの獣に対してするには、あまりにも軽率に。
「――――ッ!!」
 当然、鋭い牙が、喉元めがけて襲いかかって来た。
 完全に我を忘れている鋭い一撃。
 抉るように繰り出された爪の一撃。
 辛うじてかわしたが、続く攻撃に胴体を貫かれた。
「――っあ、」
 人狼の力は月の満ち欠けに比例する。
 その人狼の、満月の日の一撃は想像以上に鋭く、重い。
「……っんの、ヤロ!!」
 大量の血がおちる。
 辛うじて膝をつくこどだけは無かったが、すぐに相手が次の攻撃に移ろうとしている。
 容赦ない一撃を繰り出そうと、踏み出す。
「……く、」
 だからつい、本気の反撃に出てしまった。
 手負いの獣に対してするには、あまりにも軽率に。
「いってーだろうが殺す気かこのバカヤロオオオオオ!!」
 本気で殴り飛ばしてしまった。
「――――ッぐあ!!」
「……あ、」
 これもつい、相手の傷口の上から抉り込むようにして。
「あ……っと、しま……った、かな?」
 見つけた時には辛うじて意識を保っていた筈の、その狼。
 完全に沈めてしまった。
「……やっべ、どうしよ。」
 意識を失って足元にころがる狼からは、どんどん血が流れていく。
 放置は、出来ない。
 この状態で放置して、このまま死なれたら、まるで自分がトドメを刺したみたいで後味が悪い。
「……つったってなぁ、ヘンなモン連れ帰ったのがバレたら、あいつ煩ぇし。」
 どんどん力を失う人狼だった筈の足元の男は、徐々に単なる人の姿へと変じていく。
「……あれ、」
 どうしたものかと迷いあぐねるうちに、男は完全に人狼の面影の無い、ただのヒトの姿になってしまった。
「……うっわ、何コレ真っ黒さらっさらストレート?」
 乱暴に倒れている男の髪の毛を引っ張って頭を持ち上げてみる。
 つややかで手触りが良い。
「あ、しかも随分な男前じゃねーかコノヤロー。」
 その面立ちがどこか腹の立つ知り合いに似ていたものだから、つい髪の毛を掴んでいた手を離して、その貌を地面に落としてみた。
 べしゃ、と音をたてて顔面から地面に突っ込む。
 が、一切の反応が無い。
「……ううう、マジか。」
 しょうがないので連れて帰ることにした。
 魔力を集中させて、先ずは自分の腹部の傷を癒す。
「ああクソ。せっかく補給完了して落ち着いたばっかりだっつーのに。」
 深い傷を癒すためには、それなりの魔力を要する。
 魔力を使えばまた失った分だけの補給が必要になる。
 裂けた服はそのままに、身体の傷だけを完治させた。
「――――っ、」
 途端、先ほどまでは何とも感じなかった血の匂いに眩暈を覚える。
 辺りに漂う血の匂いが、甘く脳髄を刺激する。
「……くそ、燃費悪ィな、俺の身体。」
 殆んど裸に近い状態の男を担ぎ上げると、男から流れる血液が肌を伝う。
「……っく、」
 ざわりと肌が粟立つ。
 その暖かさに、理性が砕けそうになる。
「落ち着け俺。今、俺が咬んだら、コイツ絶対死ぬし。」
 それっぽく翼を広げて飛びあがる、なんて無意味で派手なマネはしない。
 ンなコトしたら目立つだけだし、もはや飛び立つような体力も無い。
「帰ったら……新八に何か、甘いモンでも用意させよう。」
 辺りに濃い霧が立ち込める。
 真っ白に、すぐ目の前の視界すら奪うほどの、濃密で細かい霧。
 沢山の血の紅も混じって、次第にそれらが闇の中にとけていく。
 風が通って霧が晴れた頃には、誰も居なくなっていた。





20140418改(KTサイト90000打リクエストより)


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