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カレイドスコォプ-4
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あの莫迦は、抜けているように見えるくせに、その実恐ろしく勘のイイあの莫迦は、気に入った獲物を逃がしたことが無い。
天性の魔性で、あっさりと欲しい相手を篭絡する。
腹立たしいことこの上無い、ちゃらんぽらん。
瞬間的に自分の好みに叶う相手かどうかを判断して、気に入れば即手を出す。
欲しいままに、だ。
だが特に構いはしなかった。
銀時に求められて、あの身体にふれて、喰って、喰われて、生きていられた者など居ない。
皆、銀時に喰われて消えてしまっている。
自分以外は、単なる食事。力の無い者は血も魔力も奪われて枯れ果てる。ただの砂になる。
だから構いはしなかった。
そんな、とるに足らないものたちのことは。
だが――――……
濃い紫煙が立ち籠めるかのように、室内の中央が霧に覆われた。
その中から、ひとりの男が現れる。
「高杉さん……、」
「銀時が戻ったな。」
「あ……はい。けど、」
訪れたのは銀時の部屋ではなく、留守番を頼まれていたであろう少年が控えていた部屋。
玄関は入ろうとする者を拒むかのように閉ざされていた。
銀時が外出先から直接自分の部屋へ戻ったことを、この少年も気配で察していたのだろう。
銀時が直接自分の部屋へ戻る時は大抵、衝動負けしての食事を済ませてきた後だ。
そしてそういう時の銀時は、誰にも会いたがらない。
ひたすら、独りになりたがる。
「あいつに話がある。しばらく近寄るな。」
「わ……かり、ました。」
有無を言わせぬ口調で云われれば、頷くしかないのだろう。
いつも側に居る銀時の食事の仕方と、稀に起きる手に負えない衝動という事情を知ってか知らずか、迷いつつも少年は頷いた。
「それから、用事があるなら帰ってイイぜ。必要があれば呼ぶ。」
要するに、もうひとりの子供も連れて城から出て行け、銀時とふたりだけにしろ、ということなのだが。
新八というこの少年は、自分と銀時との関係を知っている。
あっさり承服するかと思いきや、でも、と抵抗を示された。
明らかに怒気を含んでいる、抑えようともせず機嫌の悪い気配を撒き散らしていることを気にされたか。
「殺しに来たわけじゃねェよ。」
吐き棄てて、わざと歩いて銀時の部屋へ向かう。
少年の返事は待たなかった。
乱暴に、音をたててドアを開けた。
窓から蒼い月燈かりが差し込む部屋。
広いベッドの中央で、銀時がぼんやりと空を見つめている。
「……おい。」
話しかけても反応しない。
「銀時、」
覗き込むと、とろりと空を彷徨う視線に撫でられた。
視界には入っている筈なのに、明らかに此方を見ていない。
「……ん?」
ようやく反応して声を出す。
紅い口を少しだけ開いて、戦慄とするほどの淫蕩さをまとって、微笑む。
食事を終えた後の、その時にしていたであろう表情そのままで。
「――――っ、莫迦が。」
「――――っイ!!」
月燈かりを返す銀色の髪に、指をからめて引きずり倒した。
「……っあ!!」
「ちったァ考えて行動するとか、そういうコトが出来ねェもんかよてめェは。」
「何を、云ってんの?」
小ばかにしたような調子で返された。
此方が本気で腹を立てていることを承知の上で、我が侭をぶつけてくる。
いつもより、明らかに子供じみた仕草。
「俺が気に食わねェのを解ってて、そういうことをするんじゃねェ。」
苛立ちを隠せず、呻くように云う。
「てめェに……俺以外の、下等な血なんぞ口にされちゃたまらねェんだよ。」
俺以外の気配。
俺以外の臭い。
俺以外の残滓。
銀時の此の表情を、他に見たヤツが、他に居る。
「俺らの衝動ってさぁ、抑えられるような類のモンじゃねーコトくらい解ってんだろ。」
そんなことは知っている。
だが腹が立っているのはそういうことじゃない。
前の余韻を引き摺って、その表情を平然と向けられたことが心底腹立たしい。
「我慢ならねェ。」
「……って、云われても、ね。」
銀色の髪を掴む右手に手のひらを添えられる。
「コレ。痛てーからさ? そろそろ放して?」
「ウルセェ。てめェが今更、この程度の痛覚に反応すんのかよ?」
「此の程度だからヤなんだよ。放せって。」
「…………、」
「お前の力任せは、洒落になんねーから。」
口調が落ち着いて、少しずつ、いつもの銀時に戻る。
「フン。」
銀時から乱暴に手を離した。
開放されると疲れ果てたように嘆息して、掴まれていた部分の髪を撫でる。
本人の性質を映してか、くるくると好き放題にはねる銀糸。
強い力で掴むからクセがついた、などと言いがかりをつけてくる。
多少撫でつけたところで何が変わる訳でもあるまいに。
この銀髪はやわらかく、ほんの少しの時間ならいくらでもカタチを変えるくせに、結局最後は元のカタチに戻ってしまうのだ。
クセなんかつく訳が無い。
「本気で腹立ってんだろ。」
「ヨく解ってんじゃねェか。」
「ならもう放っとけよ。」
「……何でそうなる。」
「ンなに腹立つなら、構わなくてイイ。」
「テメ……っ、」
珍しく、本当に珍しく、冗談めかすことも無く云われた。
真っ直ぐに射抜くような、血の色の双眸に。
冗談でなら幾らでも云われた。
てめーに付きあうのは骨が折れるとか、場合によっちゃマジで死ぬからヤメロとか、二度と俺に関わるなバカヤローとか、本気のカケラも感じられない戯言は、身体を重ねる度に云われてきた。
互いの身体を貪るように抱き合って、銀時が俺の血を、俺が銀時の魔力を、喰い合う度に云われてきた。
「好きにさせてくれよ。」
溜め息とともに、吐き出すようにして呟く。
「ああ?」
魔族でありながら、銀色の異端。
白の異端。
肌が白く美しいだけなら、それはむしろ魔族にはありふれた特徴だった。
だが銀時はそうでは無かった。
総てが、闇を寄せつけない色。闇とは相容れない色。淡く白い光りをはなち、その眼だけが鮮やかな紅。
それはまるで、ヒトの子のアルビノ。
俺たちの前に、ある日突然、先生が連れて来た銀時。
ヅラと同じ、血を喰らう者だと云われてもあまりピンとこなかった。どちからと云えば、狩る者というよりは、狩られる者のように見えた。
幼いながらに庇護欲を掻きたてられた、小さな白いヴァンパイア。
「我慢きかねーんだって。腹減りすぎて、結局、気づけば暴走してるし。」
昔に浸っていた思考が銀時の言葉で引き戻された。
ころんと力なく頚を此方に傾けて呟く。
「お前のせいだよ?」
「ンだと?」
「雑魚なんか、いくら喰っても満たされない。」
「てめェなら、そうだろうな。」
「美味しくない。」
「……だから結局、てめェは何が云いたい?」
「俺が腹減ってるときに、いつもお前が居てくれるわけじゃないでしょ?」
「……オイ。何だ、ソレは。」
「けど俺は、お前に慣れてるから、もう適当な食事に手をつける気になんかなれないワケ。」
「てめェ……、」
胸倉をつかんで締め上げる。
「それが最近、新しい餌を見つけたイイワケか?」
「……あぁ、」
「てめェが俺に隠すほどのお気に入り……か?」
「かもね。」
餌が必要。
それは当然のこと。
必要なら、いくらでも奪えばイイ。
けれど――――……
握り締める拳に力が入る。
「てめェそれで、今回腹が減りすぎて、またオカシクなりそうになって、」
俺以外が、コイツに何かを与えるなど、
「そんな状況で、ソイツの処に行ったのか?」
それが、俺以外の『特定の誰か』であるなど――――
「てめェから、狗のニオイがする、」
「それは、黒い……狼のニオイ?」
あっさりと云われて、思わず手が出た。
「――――っぐぁ、」
鈍い音と共に、拳が銀時の鳩尾に沈む。
「ん……っげほ、」
「随分と満たされたツラしてやがったな。俺には遠慮するくせに、その狼には遠慮無しか?」
「高杉……っ、」
「何で俺じゃなくて、ソイツの処に行った?」
「お……い、てめ……――っん、」
制止を叫ぼうと開いた口を、口で塞いで黙らせる。
咥内に舌を這わせると、微かに、血の匂い。
「何で、俺以外を頼った――――っ!?」
「――――おい、高杉!」
「気に食わねぇ。」
我慢ならない。
「――っんぅ……ひ、あ!」
云い終わるなり咬みつくように口吻けて、口移しに銀時の魔力を吸い上げて、侵食する。
どこぞのイヌを使って補充してきたばかりなのだから、容赦なく。
「……ぅあ、て……め、」
見る間に力の抜けていく身体。
「……った……か、杉ぃ、」
荒く、熱い息を吐く。
手段は異なるが、銀時も俺も、持っている力。
相手の身体に、強制的な欲情と、快楽を引きずり出す力。
一番多く銀時に血を与えているのが自分だから、自らも持つ力だから、その威力は良く解っている。
「や……っだ、……って、」
腹が立つ。
この欲情のままに、銀時を抱いたヤツが……生きている。
俺以外の気配が、銀時に纏わり続けている。
絶対に……
「絶対に、我慢ならねェ。」
銀時が、自分以外を頼るなど――――!!
20140418改(KTサイト90000打リクエストより)