年に一度の逢瀬ではないけれど
何でもないこのひと時を
隣に居られるこの瞬間を
いとおしく思う
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金平糖
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七月七日。深夜の真選組屯所内。
土方の自室に面した縁側に、珍しく着流しのみの銀時が訪れていた。
「……ったく、どっから入って来たんだ。」
「正面からに決まってんだろ。」
銀時が手土産らしい酒を置いて、勝手に縁側に腰掛ける。
「こんな時間にか?」
「銀さんは、真選組の出入り、顔パスらしいぜ?」
にっと微笑まれる。
銀時がふたりだけの時にしか見せない、艶のある笑み。
見慣れない着流し姿のせいか、いつもとは違う色気を感じた。咥えていた煙草から灰が落ちそうになる。
「……曲がりなりにも、武装警察の屯所なんだがな。此処は。」
思わず見惚れていたかもしれない内心を誤魔化そうと、とっくに諦めていることに悪態をついてみせる。
「堅いコト言うなよ。ほら座れ。」
銀時は器に酒を注ぎながら、土方に己の隣を促す。
「おい勝手に……、」
「いいからいいから。」
「っつーか、お前何しに来たんだ? もう日も変わる時間だってのに。」
銀時が土方に器を差し出す。
「だからだよ。」
「ぁん?」
「七夕だからお月見。しようぜ?」
「…………はあ?」
思わず、嘆息してしまう。
「七夕は月じゃなくて天の川だ。星を見るんだよ、星。」
「気にすんな。どっちでも大差ねぇから。」
「要は口実かよ。酒の相手が欲しいのはわかるが、俺が此処で堂々と飲んでたら、隊士に示しがつかねぇんだよ。」
そうは云いつつも、言葉に反して土方の表情は優しい。
空に向かって紫煙を吐き出し、吸いさしの煙草を灰皿で揉み消す。
「まぁ、今回は珍しく手土産を持参だ。今日だけだぞ。大目にみてやる。」
嬉しいのに、どうしても憎まれ口をたたいてしまう。
だが銀時は気にしていないようだ。
そのことに密かに安堵しながら、土方は銀時の隣に腰を降ろす。
今夜は月が細い。
空に、いつもより沢山の星がちらばる。
ゆるりと杯を傾けると、身体に酒が染みていく。
「んで、ココじゃ短冊に願いごとを書いたりとかしてねぇの? 沖田くんなんか喜んでお前の抹殺を願いそうなモンだけど。」
「真選組はガキの集まりじゃねぇんだぞ。」
「土方くんに、何かお願いごとはねーの?」
「……願いごと、ね。」
云われても、直ぐに思いつくような願いはなかった。
銀時が夜空に向かってぱくりと口をあけ、舌を伸ばす。
「あの星全部、落ちてこねぇかな。」
「はぁ?」
「キラキラしてて、金平糖みたいじゃねえ?」
白い喉と、紅い舌。
「……っ。」
その仕草にぞくりとさせられる。
酒のせいか、いつもは白い頬が少しだけ紅い。
「あんな量の砂糖菓子が食えるかよ。」
「食えるって。夢がないねぇ土方君は。流れ星に向かって、三回願いごとを唱えるとか、したことねーの?」
「……てめーと違って、俺の場合、さしあたっての望みは叶ってるからな。」
「うっわー、ヤなヤツ。望みは叶ってるときた? 幕臣の副長サンは言うコトが違うね〜。」
銀時が冷やかし気味に言う。
手を伸ばして、その前髪をそっと指先で梳いた。頬をなぞって首筋の後ろにをまわし、そのまま引き寄せて口吻ける。
「……ん、」
重ねた唇を離すと、不意打ちに驚いた眸が瞬いていた。
今日はそういうつもりではなかったのだろう。此方も屯所の中の、何処から見られているかも判らない場所でこういうことをするつもりはなかったのだが、つい、身体が動いていた。
「願いごとなんぞ唱えるまでもなく会えたから、短冊は必要ねぇ。」
そのまま抱きしめようとすると、物凄い勢いで突き飛ばされて、拒絶される。
「――――っんのヤロ、そういう台詞を恥ずかしげもなくペラペラと……っ!!」
「滅多に会えねぇ時だってあるじゃねーか。それに、まさかテメーがたかりじゃなく手土産持参で俺に会いに来てくれるとは、思いもしなかったぜ?」
「――……ぐ、コレは、たまたま酒が手に入って、家で飲むのもババァんトコに持ち込むのもアレだから、それで、此処に来てみただけだ。」
「ここまでやっておいて、今更照れるのかよ。」
「オメーがくっせーコト云うからだろうが。」
銀時が視線を背けながら、酒を注いだ器に口をつける。 露骨に耳が赤くなっているが、指摘するかどうは迷いどころだ。
更なる照れ隠しに大声で叫ばたりすれば、明らかに局中法度に触れる此処での酒盛りがバレてしまう。
耳朶にそっとふれようと手を伸ばすと、その気配に気づいた銀時がくるりと振り返って視線で牽制してきた。
「…………次も正面から酒瓶担いで邪魔しに来てやる。ついでに次は酔っ払いながらだから、覚悟しとけよ。」
多分俺は、目がオカシイ。
銀時は拗ねた態度をとるには明らかにオッサンが過ぎるというのに、照れ隠しのこの表情が可愛らしく見えてしかたがない。
隣に並んで座り、自分の表情をできるだけ見せないようにしながらちまちまと酒を口に運ぶ銀時をじっと眺める。
悪態をつきあうのも、喧嘩をするのも楽しいが、たまにはこういう時間もいい。
星空を見上げて、穏やかな逢瀬。
今は少しだけ、この時間に浸ることにする。