いつかみんな
あの空にたどりつく
けして怖くは……
ないけれど
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暮れなずむ茜路照らせど
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蒼は霞むようにのびる雲をまとって、沈む夕陽に照らされる。
茜と交じる遠い空。
「何、見てんだよ。」
「ん?」
窓の外、銀時が見つめる先には、茜いろ。
「ソラ。」
日ごとに冷たくなって、澄んでいく空気。
「キレーじゃね?」
蒼は茜に染められて、深く重なる。
その陽の光に照らされて、部屋の中は橙いろになる。
いつかを思って、手をのばす。
たくさんの仲間をみおくった昔。
彼処までは、届かないけれど。
「似あわねぇコトを……。」
高杉の煙管からたちのぼる紫煙が、銀時の身体にまといつく。
「……おめーもだろうが。」
「あぁ?」
銀時がらしくもなく感傷に浸ってしまったのは、自分にもたれて寛ぐ、此の男の所為だ。
夕陽に染められたからでも、深まる秋の気配にさらされたからでもない。
隣りにいる高杉の、穏やかな表情に気づいてしまったから、
思い出してしまっただけだ。
「俺がいつ、似あわねェコトをしたよ。」
まるで険を含まない声が投げかけられる。
……其れだよ。其の態度とかだよ。
そんな風にされれば、つられてつい、穏やかな気持ちになってしまう。
空を仰げば、いつかに思いをはせてしまう。
こんな気持ちは、今、ほんのひとときだけだ。
ただ共に過ごすだけの時間を、大切にしてるって、わからせてしまうお前の所為で、こうなってしまっているだけだから。
少しだけ甘さを孕んだ紫煙の薫りに、茜いろの陽に染められる世界に、日ごとに冷たくなっていく空気に、より確かめられる、ふれる肌のあたたかさ。
じわりと、心の奥に沁みていく。
高杉、お前は……いつも通りでいいよ?
我儘で、鋭くて、俺の話なんか、まるで聴かなくて……
お前は、俺にはずっと理不尽にふるまってくれてていい。
そうしてくれるほうがイイ。
ケモノのままでいいよ?
俺はお前の鞘だけど、大人しく収まられても、もの足りないし。お前が穏やかだと、こんな風に、色々思い出しちまうから。
甘えたくなってしまうから。
思い出すものたちは、今も昔も大切なものだけど、思うたびに、切なくなるから。
「なぁ、そろそろ退いてくんね?」
背もたれ代わりにされているせいで動けない。
だから退けろと云った。
なのに、どこをどうされたのか、器用にも銀時は畳の上に転がされる。
「退いて欲しいのかよ?」
「だからそう云ってンだろーが。」
「離れたくねぇってツラしてるぜ?」
……ンなこと、俺だって知ってる。
露骨に眉根を寄せて、見下ろす高杉を睨んでやる。
「どんだけ自意識過剰なんだよ。」
「ふん」
ムカツク微笑み。
「俺ァ、てめェより、てめェのコトをよくわかってんだよ。」
……それも、良く知ってる。
俺だってそうだよ。
よく見てきたから、高杉のコトは、高杉よりよくわかってる。高杉が俺のことを、どれくらいよく解ってくれているのかも。
「……の割に、俺の希望は常に無視だよな。」
「口先の希望をいちいち叶える意味はねぇ。跳ね除けられる前提で云うくせに、何が無視だよ。」
――――あぁもう、ほんっとその通りですよコノヤロー。
誰よりも俺を理解しているであろうコイツは、俺の扱いを良くわかっている。
常に希望を汲まれた扱いは、落ち着かない。
つっかかっていける余地があるくらいで、ちょうどいい。
いつもの高杉のくらいで、ちょうどいい。
「ンで、今もコレは、俺のご希望に沿ってくれてるってワケ?」
「嬉しいだろ?」
「るせー……。」
陽はもうすぐ暮れて、高杉がまとう闇いろに変わる。
高杉の唇がおりてくる。
重ねるだけの優しい口吻け。
「コレも俺の希望かよ?」
「……素直じゃねぇな。」
懐かしい匂いにひたる。
「俺が素直だったら気持ち悪ィだろーが。」
「……っくく、違い無ぇ。」
こんな感傷は、今だけ。
ほんのひととき、今、この瞬間だけ。