信じられない
これがなにより、ここちイイ、とは
あたたかく、くるまれて
おだやかな眠りにおちる
――――――――――――――――――――
真綿
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自らの身体に、まわされた腕に、とまどう。
強靭な身体と、刀を握る、力強いてのひら。
俺はコイツが、いかに強いか、知ってる。いかに乱暴かもまた、存分に。
殴り飛ばすも、蹴り倒すも、もはや日常茶飯事で、会話の延長のようにすらなっている。
互いに手加減、一切無し。
そんなものは知るかとばかり。殴る時は基本、拳だ。
俺たちは全力で喧嘩をする。
此れが結構、楽しいんだ。
遠慮がいらなくて。
気も遣わなくて、加減もいらなくて。
なのに今、まるで違う現実に、くるまれている。
あのてのひらが…………
何故か今、信じられないことに、俺をの頭をなでている。
いつものように飲み屋で土方に遭遇して、弱い同士が競い合うようにさんざん飲んで、強かに酔っぱらって、帰るのも面倒になった。
すぐにでも眠りたかったから、土方とふたり、宿に入った。
もう一歩も歩きたくなくて、何とかベッドに雪崩れ込んで、すぐに意識を飛ばした。
宿代は土方君にたかろう、そんなことを考えて。
そこまでは、覚えている。
いちど完全に落ちた意識が、ほんの少し浮上したきっかけは、何かに包まれているような感覚。
無意識なのだろうか…………
転がり込んだ布団の中で、俺の身体に腕をまわしてきた土方。
ひきよせられて、ぎゅう、と抱き締められている。
吐息が、かかっている。
時折やさしく、頭をなでられる。
…………何……だ、ソレは。
波がひくように、眠気がひいていく。意識が冴えてしまう。
ついさきほどまで、あれほど眠かったはずなのに……
眠れねーっての。
みじろぎすると、「……あったけぇ」と、掠れた声が零れた。吐息のように耳朶にかかって、くすぐったい。
「お……い、」
……意識、あるンじゃねーかよ。
そう思って声をかけるが、何も返ってこない。
逃れようとするのを抑えるかのように、抱きしめる腕が、ただきつくなっただけだ。
なに、動くなってことかよ。
ぽん、と後ろ頭にてのひらがあてられて、また、やさしくなでられる。
はねる髪に指先をからませて、するりととおす。まるでいつくしむようなやさしさで。
意味……が、わかんないよ、土方君?
抱き枕がわりなら、ないでしょ。
ソレは。
意味わかんないんですけど。
何でそんなふうに、人の頭なでてるんですかちょっと。
男ふたりでただ寝るだけなら、ソレは……ない。
その抱きしめかたは。その声は。
有り得ない。
意味わかんないって。
ふれかたが……
声が……
〈なにか〉を……云ってるようにしか、きこえねえ……よ。
じわりと、肌が汗ばむ。
向かい合って、何だこの、まるで俺が、抱きしめられて寝てるみたいな体勢は。
かおが、近い……
つーか土方君、唇、ふれそうだってば……
静かに、規則ただしい寝息が続く。
本気で……寝たのかよ……
かたちを確かめるように、密によりそう身体。
ときおり、少しだけ眠りから覚醒するのか、ゆるりと動くてのひら。
日頃の殴り飛ばしたりだとか、蹴り倒したりしあうのが、何かの間違いかと思わせるような、やわらかさ。
やべえ――――――――ねみい。
身体をめぐったアルコールのせいではなく、ゆるく侵食してくる、此の体温のせいで。
指先までまわる、眠りにおちる寸前の、痺れるようなここちヨさ。
此れ、まずい。
離れねえと……
此の状態で、熟睡するわけにはいかない気がする。
重くなって閉じかける瞼ひらけば、端整な貌が眼の前に映る。
額をさらりと流れる濡羽色。
うすくひらいた唇が静かに息をこぼす。
思わず凝視してしまう。
その気配に気づいたのか、うっすらとひらかれる双眸。
「ん……、」
焦点の定まらない眼が、俺を捉えて、再び静かに閉じられる。
まるで、安心したみたいに。
また、頭をなでられる。
てのひらは、みだれる髪を絡めては梳く。
「寝れねえか?」
瞼を閉じたまま問われる。
「……――――ん、や。」
とても、眠い。
「なコトねえよ。」
眠いんだって。とてつもなく。
ただ、意味がわからない。
ソレ。
「なら、寝……ろ。」
少しかすれた、甘い声。やさしすぎる声。
「さむくねえか?」
だから、その声。
「…………ん。」
やたらと、あたたく、沁みこんでくる体温。
何なんだよコレは。
意味がわかんねぇ。
なのに、ここちイイ。くるまれて、あらがえずにおちてしまう。
意識が遠のいていく。
「ぎ……ん、」
ここちヨく、響く声。
もう、他のことがどうでもよくなってしまう。
このままおちて、意識を手ばなしたら、たぶんもの凄く、きもちいいだろう。
ふと、意識が沈みきる前に、あらぬコトを思ってしまう。
いっそ……寝言でいい。
うっかり〈すき〉とでも、いわねえかな……コイツ。
20080917/20130909改