言葉戯れ
願いゴト
叶うことなら
君のとなりに
――――――――――――――――――――
明けまして
――――――――――――――――――――
炬燵の上には雑煮と蜜柑。
はりついたようにその炬燵から離れない銀時と、方膝を立てて座り、見下ろすように銀時を眺めている高杉。
二人の間で雑煮のもられた朱色の器がゆるやかに湯気をのぼらせる。
「で、正月早々てめェは何やってんだ?」
「ん〜……?」
背中をまるめて炬燵に入る銀時は、旨そうに雑煮を口にする。
「うめぇ。」
「ふん。」
当たり前だとでも云うかのような高杉の態度。つくったのは、当然、高杉がとどまる宿の者だが。
銀時は両のてのひらで雑煮の椀をつつみ、その温かさに頬をゆるめる。
澄んだ出汁と彩り鮮やかな野菜にかざられたそれは、既に二杯目。
「あとはやっぱ、お汁粉ときな粉かな。甘さ控えめとか余計な事してくれなくてイイから。ねぇの?」
「……帰れ。」
「何で。」
「俺ァさっきもきいた筈だが、てめェは正月早々に一体何をしてやがる?」
「正月を満喫している。何か文句ありますかコノヤロー。」
「満喫する場所と方法を考えろてめェは。」
「お汁粉〜。」
「黙れ。」
「きな粉〜。」
「帰れ。」
銀時は上目づかいに高杉を睨む。
「けち。」
「殺されてぇのか?」
家鴨のように口をとがらせた銀時に、高杉は冷たく云い放った。
「雑煮くらい、てめェの家で食え。」
「人のつくったヤツが食いてーの。」
「だとしても何で此処に来る。」
「うちのガキ共が、発売りだとか云って出掛けちまったから?」
「答えになってねぇ。」
「どうせ高杉、正月は暇だろ?」
「……ほぉう、」
他の人間がそうされたなら竦みあがってしまいそうな眼で高杉が銀時を睨む。当の銀時はそれを気にした様子も無く、高杉の視線を受け流し、残りの雑煮をぺろりとたいらげた。
「年明けてすぐに初詣行ってきたんだけどよ、神社でお神酒がふるまわれててさ。何か、やたらと旨かったんだ。アレって、場の雰囲気とかなのかね?」
「何が旨ぇんだ、ンな正体不明な酒。」
くだらないとばかりに眉根をよせた高杉が煙管に火を入れる。
銀時がその高杉を上目づかいにちらりとみて、少しだけ唇の端をあげた。
「アレ、もしかして一緒に来たかった?」
「冗談じゃねぇな、あんな人ごみ。」
冗談めかした口調の一言はそっけない態度に一蹴される。
「まぁそーだろうな。真選組のコワいおにーさん達が、年末年始の警戒だって、うろちょろしてたし?」
にやにやしながら云うと再び鋭い隻眼が銀時を睨む。
「鬱陶しい。面倒だから行かねぇだけだ。」
「ふうん。」
「……ンだよ。」
「別に?」
銀時は高杉の返答に興味無さそうな相槌をうつと、瞼をふせて空になった雑煮の器に口をつけた。
「……昔さ、みんなで行った事あったよなぁ。」
器に隠れて高杉からは銀時の表情の全てが窺えない。
ぽつりとそうこぼすと何も云わなくなった銀時。
珍しく高杉がどう返そうかと逡巡しているうち、再び先に銀時が口をひらいた。
「おかわりちょうだい?」
ことりと小首を傾げた仕草で、てのひらに包んだ器を差し出す。
それに応えず、高杉は無言でするりと立ちあがった。
「あれ?」
仰ぎみる銀時を、そのまま押し倒す。
「……って、オイ。」
にやりと笑う高杉の唇が、いかにも楽しそうに言葉を吐く。
「ったく、てめェは。一緒に行きてェなら、最初からそう云やぁイイだろ。」
「何が、」
「初詣。」
「別にンな事云ってねーよ。」
「さっき云っただろうが。」
「別にてめぇとなんか行きたくねえ。つーか危ねーんだよ、真選組とかその辺に普通に居るっつーの。」
「人ごみに紛れたらバレやしねぇ。」
「てめーのその派手なナリでバレねーわけねぇだろ。」
「ならいっそ造ってやろうか? 神社。」
「いや、落ち着けよ。何でそうなるんだよ。神社造ってどーすんだよ。」
「専用があったら便利だろうが。資金ならあるぜ? てめェんトコと違って、潤沢に。」
「バカですかお前は。本来の目的に使えやこのダメテロリストが。」
「っくく。」
「ンだよ。」
「お望みなら、本当に作ってやる。」
「ヤメロ。神とかじゃなくて絶対何か禍々しい別のモンを祀ってやがりそうだから。」
「そういう神社だって普通にあんだろ。遠慮すんな。」
「してねぇ。っつか何でそんな乗り気?」
「色々と、使い道があるんだぜ? 例えば、」
「ききたくないわ!! 不純な動機で造って良いモンと悪いモンがんだろ。マジで勘弁しろ。」
問答に疲れた銀時が溜め息を吐く。
「……でさ、どうでもイイけど、そろそろ俺の上から退かない?」
銀時の言葉に高杉がにぃ、と笑む。その貌がゆるりと降りてきて唇が重ねられた。
「……っん、う。」
滑り込む舌が銀時の咥内を這いまわる。
「ふ……っあ、」
息が切れてきたころに、ようやく解放された。
「初詣はともかく、」
「んあ?」
「姫始めなら、してやるよ。」
「――――はぁあ?」
「……ああ、この場合は殿始め、か。」
「その意味での『はあ?』じゃねーよ!! 突然脈絡も無く盛ンな!!」
「てめェの普段の情緒の無さに比べりゃいくらかマシだ。」
「どういう比較だ……って、どこに手ェ突っ込んで……っ!?」
器用に滑りこんだ高杉の指先が銀時の脇腹をなでる。
「……っん!!」
「相変わらず、弱ぇな。」
「る……っせ、ヤメロっ!!」
云って顔を背けた銀時の耳朶に高杉が唇をよせる。
「……っう、あっ、」
中に吹き込むように息をはいて、耳の裏に舌を這わせると、銀時は息を詰めて肩を竦めた。
「どうせ年末からぐうたらしてたんだろうが。ちったぁ運動しろ。」
「そう、思うなら……普通の運動させろ、」
「普通だろうが。」
「どこがだっ!?」
器用に単衣をはだけさせて、高杉のてのひらが銀時の肌を撫でる。
「ちょ……っ、こら!!」
慣れた動作と体温に、これからおこる快楽を期待して身体が熱をもち始める。
「で、此れは何だ?」
「――――っ、」
高杉が銀時のかたくなりかけた中心を暴く。
「て……めーはほんとに、ソレ以外ねーのかっ?」
「ソレに悦んでんのは、何処のどいつだ?」
「……ん、ぅあ、あ」
中心を刺激しながら壁を崩すように入り口を緩めて、進入した指がぐねぐねと銀時の中で動き回る。
「……っひあ、んう……あ、」
特定の場所を掠めると、銀時から高い声がこぼれて背を仰け反らせた。
着物を握り締める銀時の指先に力が入る。
かたく勃ちあがった自分を捻じ込んで、貫いて、銀時を啼かせる。
わざと音をたててやると、銀時が厭だと首をふった。
「何が厭なんだよ、」
涙に濡れる眼が訴えるのはきかずに、高杉は思い切り銀時の中を穿つ。
「――――っん、アア!!」
刺激に耐えながらふるえる脚を押さえつけて、思うさま突きあげる。
「や……っもぉ、出る――っい、あ!!」
「まだ、足りねェよ。」
幾度も吐精して、互いの身体を汚して、貪って。
高杉にまわされていた銀時の腕がおちたころ、ようやくふたりは、身体を離した。
「疲れた……初詣の……人ごみよりも、疲れた……。」
「鍛え方が足りねぇんだよ、てめェは。」
「おめーのこっち方面に関する体力の方がオカシイんだっつーの。」
「これくらい普通だろ。」
「何度も云ってますけどね、ヤられる側の負担って考えた事ある?」
「知ったこっちゃねぇ。」
「さいあくだなテメェ。」
纏うものの無い身体を投げ出して銀時は仰向けに転がる。
「いくらばかでも、そのままだと風邪ひくぜ?」
「ばかは余計だ。」
「……ったく、」
唇を尖らせた銀時の頭に、高杉がぱさりと単衣をかける。
「わ……っぷ、ちょ、」
「云えば、ンなモン、いつでも一緒に行ってやる。」
少し早口に高杉が云った。
「あ?」
それが銀時にはきちんときこえていなかったらしい。
被せられた単衣を頭から引き剥がして問う。
「わり、何? もいっかい、云って。」
「…………。」
「コレ邪魔でちゃんときこえなかったんだっつーの。」
「この俺に、同じ事を二度も云わせるんじゃねぇよ。」
「何だその俺様っぷりは。」
不機嫌そうに高杉は煙管に火を入れる。
「文句あンのかよ?」
紫煙を吐き出す高杉に、銀時はちいさくため息をついた。
単衣を羽織ってから、ゆっくりと腕をまわして抱きしめる。
「来年は、一緒に初詣……か?」
「あ?」
「云えば、一緒に来てくれんだろ?」
「――ッ、」
途端、これ以上無いくらいに、高杉の隻眼が見開かれた。
「……て……っめェ、」
「てへ。」
銀時はわざとらしい笑みをうかべて肩を竦める。
「……って、アレ?」
そのまま高杉の流れるような動作で銀時の両腕はぎっちりと捕まれて、傍らに放られていた帯で、きつく一纏めに結ばれる。
「あの、高杉君? コレ……は?」
「そういうふざけた事をしでかしたからには、覚悟……出来てんだろうなァ?」
「え? ……っちょ、何の?」
「黙れ。」
「――――ぅあ、てめ、……っまさか、」
「二度と立てねぇようにしてやる。」
「待て!! 無理!! 今日はほんっとにもう無理だからッ!!」
「きこえねェな。」
「ソレぜってーきこえてんだろがッ!!」
「うるせぇマジで黙れ。」
「や……っ、ごめん!! マジで謝るから……っ!! 許し――――!?」
この翌日、正月早々、万事屋の主は痛む腰をかかえて寝込む事になる。誰にも理由を云えぬまま。
きっとこの調子のまま、今年一年もこいつには振り回されるのだろうと、確信しながら。