恋愛という扉の前を行ったり来たり
その状態
どんなに認めたくなくたって
とっくに手遅れ……ですけれど?
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イロコイ
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「ひーじかーたく〜ん。」
往来で俺をみつけて、むかつく態度でへらりと笑う。
人を小ばかにしたような態度で飄々と、ふらりと近寄る、銀髪天パ。
「用も無いのに話しかけてくんじゃねぇ。」
いつも一緒のガキ共は居ないらしい。
こちらも一人という、都合の良い状況で声をかけられた。
「あるある。すっげぇある。」
「あぁ?」
「……実はな、俺、糖分切れたんだ。」
「……で?」
問うまでもない。
「土方君、今ヒマでしょ?」
「暇じゃねぇ。」
云いたい事はわかる。
「そうか暇か。ヨシ、なら俺に付き合え。」
「だから暇じゃねぇって云ってんだろうがっ!!」
「まあまあ。」
悪態はつくのに何でか俺は流されて、いつもねだられるがままに、コイツが望む甘ったるい食いものを奢らされてしまう。
退屈そうな眼は、目当ての品が運ばれてきた途端に輝きだす。
俺は煙草に珈琲で、旨そうにスプーンでアイスをすくうコイツを眺める。
何の効果か……糖分を貪る目の前の男の、無邪気な表情が眩しい。
瞳孔がひらいてるからだろうか?
みつめながらぼんやりと思う。
あの時に出会わなければ、違ったのか、とか
あの時に戦わなければ、違ったのか、とか
今更考えても詮無い事をつらつらと考える。
一番最初にキスをしたのは、素面の時だ。
在りえない事に眼の前の銀色にふらふらと吸い寄せられて。
ふれた瞬間、予想していた以上に身体の中が熱くなった。
まるで、焦がれていたものに、ようやくふれる事ができたみたいな、そんな反応だ。
実は愕然とした事を、今でも覚えている。
俺が、この男……を?
冗談だろう。いや、冗談であってほしい。
気の迷いだ。
焦がれるって何だ?
抱いた時は、酔った勢いに任せた。
二人ともひどく酔っていたから、その勢いでなだれ込んだんだ。
気づけば俺は、夢中で腕の中の身体を貪って、耳に届く喘ぎが心地よくて、あらん限りの手管で、コイツの身体を追い詰めた。
万事屋はヨかった。あり得ない程に。
一度では、とどまれなかった。
ぺろりとクリームを舐める舌が、記憶に残る違う映像と重なる。
「ん〜、旨い。」
甘いものは苦手だから、自分の口に入るのかと思うと冗談じゃないが、コイツが口に運ぶソレはやたらと旨そうにみえる。
てゆーか、舐める舌がエロイ。
本人が自覚しているのか定かではないが、時折こちらに向けられる視線が、誘っているようにみえる。
余計な事を知ってしまったからだろうか。
何でもない筈の仕草に、たまらなくなる。
最近気づいたことだが、コイツが自覚してそういう仕草をしている時は、まだよかった。
無自覚に下手な真似された日にはたまらない。
むしろそっちの方が腰にクる。
あの時から、無邪気な表情も、毒以外の何者でもなくなった。
「おめーがあっさり奢ってくれるって、珍しいのな。」
スプーンを咥えたまま、小首を傾げて云う。
「てめぇでタカっておきながら、今更なにを云ってやがる。」
煙草を潰して吐き捨てると、またへらりとした笑みをこちらに向ける。
「まぁな。」
ただそれは口の中に甘いものが入っているからなのか。
先程声をかけてきた時のような、厭味ったらしいものじゃない。
「食う?」
「いらねぇ。」
「あっそ。」
俺に差し出したスプーンを戻して、幸せそうに口に入れる。
あぁもう。可愛い。
二十代も後半に足突っ込んでる男なのに。
思ったことはおくびにも出さずに返したが、内心は結構ヤられてる。
どんな状況だろうと、可愛いなんて思ってしまったら、それは間違いなく恋のはじまりだと……云っていたのは誰だったのか。何かで読んだ事なのか。
色んな意味で愕然とする。
この男が可愛いだなどと……可愛いなんて思ってしまったら、それは間違いなく恋だなどと…………
イヤ恋じゃねえ。認めるわけにはいかない。絶対にだ。
普段とのギャップが激しすぎるから、ビビらされてるだけだ。
こんだけ落差があればそりゃ驚かされるだろう。
気にもなる。
そうだ。
珍しさにそりゃあきっと興味も湧くだろう。侍として、その強さを認めてる男の、生き方を認めている男の……その事だから。
「うめぇんだけどな。」
だからそういう口して云うな。
煽られる。場所も考えずに押し倒したくなる。
……って、アレ、駄目だ。何かオカシイ。
考えてる事が滅茶苦茶だ。何だコレは。
色々と考えながら飽きずに眺めていると、あっという間に万事屋はパフェを食い終わる。
「ごちそうさん。」
満足したのか、にこりと極上の笑みだ。
「ふん。」
財布にされただけなのに、その笑顔が返ってくるなら、悪くはないなんて思ってしまう。
この笑顔ひとつで、どうしてか気持ちが暖かくなってしまう。
駄目じゃねぇか、俺は。
ちょっと……いや、かなりおかしいんじゃないか。
普通に考えれば、惚れてる以外の何者でもないだろう。
この思考回路は。
駄目だ。アイツは男だ。しかも万事屋だ。天パだ。
思い出せ。普段のアイツの怠惰な状態を!!
やる気のカケラも感じられない緩い態度を!!
何処がイイ!?
いや、抱いた身体はたまらなくヨかったんだが。
「んじゃあ俺そろそろ行くわ、またね。」
「……っ、あ、ああ。」
たかるだけたかって、用が済んだら後はさっさと帰ろうとする。居なくなるのかと思うと、あからさまに気落ちする自分。
引き止めたいのに、その腕をとらえて抱き締めてしまいたいのに、固まって動かない右手。
その前に、店を出た此処は往来だ。
落ちつけ自分。衆人環視だ。
俺たちは幾度か、戯れに身体を重ねただけだ。
万事屋の背中が離れていく。
遠くなると、じりじりと焦がれる。
放したくない。手放したくない。
その前に、俺のものじゃない。
手に入れたい。
確固たる信念を持っているのに、たやすく本当を曝け出さない。
嘘はついていないのに、いつも誤魔化して、はぐらかして、煙に巻く。掴まえたかと思ったのに、するりとてのひらから、こぼれていく気がする。
だからだろうか。
何が何でも、掴まえたい。
俺のものだって云って、他なんかみるなって云って、俺だけで満たして、支配してみたい。
お前を俺だけにしてやりたい。
ぐるぐると脈絡もなく廻る思考は、かなり危ない。
遠くなる背中をみつめていると、誤魔化せないほど、強くなる気持ち。
あぁもう。
何処がイイも何もない。しょうもねぇ。
認めたくないだけで、俺はとっくにコイツに捕まっていて、認めたくないだけで、とっくにこれは、認めるしかねぇ状況だ。
まるでダメだ。
とっくに気持ちは持って行かれちまっている。
認めたくないってだけで……コレはとっくに――――
手遅れですよ?
土方君?
ニヤリと笑う、男の声が聞こえた気がした。