熱さと目眩
陽のひかりより月あかり
気づけばいつも
呑まれて酔う
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桜宵
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蒼く降りそそぐ月あかり。
闇色の空と、冷えた空気に頬をさらして、夜道を歩く。
朧なひかりにふと立ち止まれば、桜の下で魔性に出会う。
「……あれ、奇遇じゃん。」
「――――っ、」
気配も無く突然発せられた声に思わず息をのんだ。
ふわりと、桜の木の下から浮かびあがる白い姿。
あたかも幽鬼。
蒼い月あかりをそのまま纏ったかのように現れる。
「な……に、してんだ。こんな処で。」
気配に気づけなかったことに動揺した。
「ん〜? 通りがかった。夜の桜もいいモンだなぁって、思ってさ。」
自らの重みに垂れる枝に腕を伸ばして、するりと撫でる。
思わず見蕩れて、次の言葉をつなげなかった。
「土方君こそ、制服姿でこんな処で、何してんの?」
「……、」
問われて返答につまる。
宵にようやく仕事を終わらせられて、ふらりと月あかりに誘われるようにして屯所を出た。
此処へは何となく足が向いて、来てしまっただけだ。
いつだったか、真選組と万事屋一行が花見でかち合った此処に。
あれ以来、一緒に……と云って良いのかどうかはわからないが、花見をしにくれば、必ず万事屋一行と真選組は、同じ処で花見をするようになった。
実際に今居るのは、其の場所ではなく、通りに面した外れの位置だが。
「仕事中?」
軽い調子で問われる。
「……いや。」
「なら、付き合おうよ。」
そう云うと、此方の承諾も待たずに歩き出す。
わざと足音をたてているのだろうか。先ほどの静けさも気配の無さも、全く感じさせない足取り。
きちんと二本の脚がついていることに、どこか安堵した自分の考えを、莫迦らしいと振り払って後を追う。
「何に付き合えってんだよ。」
「え、呑みに行きたくない?」
「……ソレ、俺を財布にしてぇだけだろが。」
「だめ?」
振り向いてさも残念そうに問われる。
紅い双眸にのぞきこまれて。
「久々に、あえたのに?」
「…………、」
今年は忙しくて、花見には参加出来なかった。
例のごとく山崎に場所取りまでさせていたのに、自分だけが、書類仕事に忙殺されていた。
だからか。
甘やかすから良くないのだと、わかっていても、甘やかしてしまう。
こうやって二人きりであえたのは、本当に久方ぶり。
コイツは強かで、こういう処ばかり甘え上手だ。
此の恋人に、こうやって、今までどれだけ貢がされてきたことか。
「……ったく、」
甘やかすから良くない……のに。
二人きりの時にだけ、コイツが感じさせる気配に、表情に、
いつもとは違う、やわらかい声に――――
結局、わざとらしく眉間に皺を寄せて、面倒そうに煙草の煙を吐き出して、甘やかしてしまう。
奢りとなれば遠慮無く、銀時は、ふらりふらりと身体の動きが覚束無くなる程に酔う。
緩んだ表情で微笑みながら、頬杖をつく。
からころと、空いたグラスの氷を転がしながら、幸せそうな貌をする。
「万事屋……、」
外に居るときは必ずそう呼ぶ。
「な〜に?」
酔いにのまれた表情のままに、ことりと頚を傾げる。
とろりと潤んだ眼で、みるともなしに向けられる視線。
少しだけ、甘えたような声音。
久方ぶりの、声と匂いにあてられる。
「……帰したく、ねぇ。」
思わず口をついて出た言葉に、眼の前の魔性は、にやりとわらう。
くすくすと、とても楽しそうに。
身を乗り出して、テーブルの上で近くなる貌。
いつの間にか重ねていたてのひら。
唇を重ねる直前の距離と気配。
「ん?」
……くっそ。
罠にかかった獲物をみおろすように、悠然と微笑んでみせる銀時。
鼓動が跳ねる。
――――ンとに、コイツ相手の俺は、余裕が無ェな。
項にてのひらをすべらせて引き寄せる。
少しだけ戸惑うような弱い抵抗をみせただけで、銀時は大人しく腕の中に堕ちてきた。
口吻けた傍から、身体の中が熱をもつ。
コイツは男だとか女だとか、そういうことはまるで関係なく俺を惹きつける。
底知れぬ魔性の其れで、性別などと、そんなものに何の意味があるのかと、思わされてしまう。
いつも、とらえられている。
「出るぞ。」
気づいたときは深みにはまり、とうに、手遅れだ。
「ん? じゃあ、お会計はよろしくね。」
呑み代だろうとパフェ代だろうと、欲しいなら何だってくれてやる。
言い訳も、見栄も、意地も、何もかも。
そんなことで失うくらいなら、莫迦らしくて、冗談じゃない。
みっともなくても、がっついていても、しょうがない。
此の惚れた腫れたは、駆け引きを持ち込むには、想う気持ちが強すぎる。
もう昔のように、男相手だとか、それもよりによってコイツ相手だとか、そんな風に思うことは無くなった。
抱き締めて腕の中におさめれば、其れは間違いようも無く男の身体で、ちっともやわらかくない。
のばされる腕には強靭な筋肉。力強い骨格。ふれる肌の奥に感じる、力強さ。
こういう意味で惹かれる要素になど、成り得ない筈だったそれら総て。
それが……何でこんなにも、俺を煽るんだか……?
頭の片隅で小さく自問し、重ねた唇から咥内に舌を捻じ込む。
「……ん、」
身体の芯を熱くする。
ぞくりと、甘い痺れを伴って、何かが這い回る。
布越しに伝えられる体温が、熱い。
ぼうっとする。
潤んで、此方をとらえるともなしに向けられる視線。
掴んでいるのに、ふれているのに、するりと腕の中から消えられてしまいそうな、コイツは時折、そんな不確かさを感じさせる。
無駄なく綺麗についた筋肉。白い肌。
膝をついて腰だけを高くあげた姿勢にさせて、背筋を指先で辿ると、声をつめてぴくりと反応する。
「……っ、――――ん、」
鼓膜から進入してきて、甘く響く。
「――――っひ……あ、うあ、」
腰を沈めて、柔らかい肛内を貫く。
「や……あ、……っく……あ、」
求め、求められるだけの体制に興奮する。
揺さぶるたびに、熱い息と、掠れた声。
唇の端から透明な唾液を垂らしながら、眉根を寄せる。
「そ……こ、ダメだ……って、――――っア!!」
やたらと反応を返す処ばかりを狙って穿つと、厭だと涙声が請う。
「どこ、だって?」
「ひう、っあ、っん……あ!!」
がくがくとふるえて、涙をこぼす。
抉るようにかきまぜて、素知らぬ態度で勃ちあがる前を擦りあげると、素直に甘い喘ぎをくれる。
「あ、んぅ……っふ、」
だがすぐに達しそうになるのに気づいて、根元からきつく握り締めてやった。
「イ……って、……っあ、」
それでも、アルコールに犯された身体は理性が緩んで、甘い喘ぎはとめどない。
「や、だ……っあ、外せ……って、それ、」
ぱさぱさと、シーツの上で揺れる銀糸。
「きこえねぇよ。」
「ばか……か、っあ、」
桜の下、風に舞う花びらと共に揺れていたのと同じだ。
「……っあ、」
快楽に仰け反る背に口吻けて、シーツを握る腕をとる。
「うあ……っ!!」
より深く繋がれるように引き寄せた。
「ん……――――あっ、」
ひたりとふれる、汗ばんだ肌。
上気して色づいて、らしくもなく、素直に綺麗だと感じた。
此処に痕を残すなど……と、思いながらも、気づいたときにはもう其の肌にふれたいた。
肩口に噛みつくようにして。
「イ……って、おい――っ、」
抗議の意図は無視して、肩から腰におちるように。
「ダメ……だって、」
桜の花弁がおちるように。
「や……っめ、」
背筋を辿る。白い肌に、薄い紅を残す。
「――っア、」
中にも外にも、俺を刻んでうえつけたい。
「っ……ん、っああ!!」
お前も呑み込まれればイイ。
俺がお前に呑まれている分、同じだけ。