此の想いは
叶う瞬間には終わるのだ
何処までも
求めるものは重ならずに
――――――――――――――――――――
トリカゴ
――――――――――――――――――――
いくら求めても足りず、いくらふれても、なお足りず。希むままどこまでも、どこまでも求めて、いっそ此の腕の中で壊れて消えてくれればイイ。
そんなふうにすらみえる。
「其れほど気に入りならば、鎖にでも繋いでおけば良いでござろう?」
部屋に入るなり、呆れたように云ってしまった。約束をとりつけて訪れた訳ではなかったから、こういう状況に遭遇することも全く考えなくはなかったが。
それにしても……と、万斉は貌を顰めて、あからさまに嘆息してしまう。
「……別に気に入ってる訳じゃねぇよ。」
部屋の主は高杉晋助だ。
乱した布団に片膝をたてて座したまま、伸ばしたもう片方の脚に凭れる銀色の髪を、指に絡めて玩ぶ。
何を問わなくともひと目で判る、白夜叉の惨状。滅茶苦茶に、貪るように犯したのだろう。
意識を手放して横たわる身体には、行為の痕が色濃く残る。泥のように眠って動かない坂田銀時。強靭な筋肉をもつ腕も、くたりと投げ出されて力無い。晋助がまるで名残を惜しむようにして、汗ばむ肌に指先でふれる。
もともと様々な所作がサマになる男だったが、今日はひと際。視線を奪われてはなせなくなった。
「用が無ェなら消えろ。」
晋助の仕種に言葉を失っているうちに、感情の波を殺した静かな声に云われる。
白夜叉をみていたとでも、思われたか……?
散々に求めて、求められて。眉根を寄せて、ぴくりともせずに晋助に寄り添う身体。鬼神と怖れられた男の面影はない。
「用も無く来た訳ではござらんが、」
以前、云ったことがある。
白夜叉に、お主は亡霊だと。晋助らと共に戦った昔を忘れられず、過去にしがみつく、亡霊。囚われているのだと。
だが…………
静かに、此方を見据えてくる隻眼。白夜叉と居るときの晋助は明らかに違う。いつもと異なる、異質な気配を孕む。
「俺ァ、失せろと云ったぜ?」
「……タイミングが悪かったようでござるな。」
囚われているのは、晋助の方。
「溺れぬように、するでござるよ。」
……云っても、とうに、手遅れであろうが。
「はっ、」
下らないとばかりに晋助は嘲笑う。
「テメェからすれば、此れは溺れているようにみえるのか?」
こういう求め方をすれば、意識を飛ばすまで相手を抱けば、と口には出さずとも続けたいことはわかる。
「別に今に始まったことじゃねェ。」
ぞんざいな口調と丁寧な指先の動き。
「溺れちゃいねぇよ。進むべき路も、成すべきことも、忘れちゃいねぇ。」
「そういう意味ではござらん。」
晋助が迷っているとも、目的を違えているとも思ってはいない。白夜叉とも、晋助が問題無いと判断したなら、逢瀬なり何なり好きにすれば良い。
懸念は、其の繋がりが強すぎることだけだ。
いつだったか、『アイツらは春雨と手を結ぶための餌だ』と云っていた晋助の、其の表情はどこか楽しそうだった。
狂乱の貴公子・桂小太郎と、白夜叉・坂田銀時。
二人の首を手土産にと云った晋助に、そんなつもりは欠片も感じられなかった。まるであの二人が逃げおおせることを予期していたかのような、それで当然というような。始めから、そうなると予期していた態度。
みせつけられた、絶対的な信頼。
「俺達ァ、昔からこうだ。」
迷いの無い言葉で、揺らがない根底をみせつけられる。
溺れることと信頼することは、まるで違う。だが、晋助の白夜叉に対する其れは、どちらも、とても近いものにみえる。
伝えたところで、己の命を危険に晒すだけだろうが。
「白夜叉殿がお帰りになられた頃にでも、出直すでござる。」
返答を待たずに部屋を出て、後ろ手で静かに襖を閉める。晋助が静かに動く気配が伝わった。
本当に、そのうち鎖にでも繋いでしまうのではないかと思わされてしまう。尤も、其れに屈するようであれば、そんな状況に甘んじるような白夜叉であれば、晋助が此れほど執着する訳は無い。そんなことが叶う相手なら、晋助はここまで執着しない。
あまりに強い、折れぬ魂を宿した双眸。ただの一度で此れほど惹かれるのだから、関わって深く識ってしまえば、離れて手放さなければならないなど、我慢ならないのだろう。
一度、あの男には木刀の一本で、ヘリのコックピットにに叩きつけられたことがある。
間近にみた其れに、あまりにも強い紅の双眸に、呑み込まれるかと思った。
真っ直ぐな眼。
あれを捕らえて、繋いで、閉じ込めて――――――――
わからなくもない。
だが、それは、永遠に叶わない。
互いに手近い処で、熱を解放する相手としたのが始まりか、刀を握ることで昂る感を、 鎮めるためにしたのが始まりか。何が始まりだったのかは、想像するしかない。
「全く…………、」
白夜叉に執着する晋助。晋助とのつながりを断ち切れない白夜叉。そして、そんな彼等に惹かれている自分。
「拙者の周りは、厄介な者たちばかりでござるな。」
自分自身を含めてだ。
瞼に焼きついて離れない鬼の姿を振り払おうとする。頭の中からいつまでも消えない白。
晋助はしばらく白夜叉を離さない。
きっと、本日中のお目通りは諦めるしかないだろう。
20140129改
Copyright(c) 2014 all rights reserved.