遠い、遠い記憶。
戻りたいけれど戻れない。
とても大切な、あのときの記憶。
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散らばる世界
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ばらばらになっていった。
大切なものだけが、護りたいものだけが、零れおちて、崩れおちて、なくなっていった。
抱きしめることも出来ないまま、理不尽に、沢山のものを失い続けていた。
沢山のものを奪われ続けていた。
そんな俺たちが、俺が、それでも笑い続けて居られた、あの刹那。
お前たちが、お前がいた時間。
「ほらよ。」
「――――ッ!?」
「手でも貸してやろうか? 銀時ィ。」
「……あ、」
相手を俺と認めた瞬間、緩められる銀時の表情。
「……っルセェ!!」
幾分か幼く見える其の表情は、直ぐに消えるが。
「誰がテメーの手なんか借りるかよっ!?」
吐き棄ててそっぽを向く。
……ったく。
肩で息をしていた。そのくせ差し出したてのひらは、払うどころか、叩きつけるくらいの勢いで即座に拒否される。
立ち上がろうとする膝が、少しだけ震えていたくせに。
可愛げの無ェ。
「行くぞオラ!」
刀を握りなおして俺を急かす。
来いよ、と乱暴に手をふって、勇ましく走り出そうとする。
今更コイツに、しおらしさだの殊勝さだの、そういうモンを求めちゃいねェが……
「…………、」
「高杉?」
動く気配の無い俺を振り返る銀時は、此処でようやく俺と視線を合わせた。
「銀時、てめェ、キツいんだったら下がってろ。俺が前に出てやらァ。」
「ああ?」
挑戦的になら、いくらでもあわせて、睨みつけてくる双眸。
「ふざけんなよ。何で俺がおめーの後ろなんだよ。だったらそっちこそ、鬼兵隊つれて後ろに下がってろ。俺が前に出る。」
銀時が無駄に口数が増える時と視線を合わせたがらない時は、嘘を吐いている時か、何か誤魔化したいことが在る時と決まっている。
「……ほぉう。」
疲れているくせに。
「おら、」
「――っうお!?」
真っ直ぐに立つ銀時の膕を膝で背後から小突くと、がくん、と呆気なく崩れて膝をついた。
「て……っめ、何しやがる!?」
とうに限界なくせに。
「……っくく、みっともねェな。」
膝をついたまま肩越しに睨みつけてくる銀時を見下ろして、笑ってやる。
「るせぇ!!」
「……ったく。」
俺の気配にすら直ぐに気づけないくらい、疲労しているくせに。
俺に気づいた途端、あんな表情をこぼすくらい疲労しているくせに。
「無茶ばっかしてんじゃねェよ。」
其れを誤魔化したくて、ウルセェだの何だのと無駄に叫んでみせる。
――――莫迦だ。
……一瞬、コイツのそういう処が、其れは其れで可愛げってヤツかもしれないなどと、思った俺も相当、莫迦だが。
「オラ。」
もう一度てのひらを差し出す。
「てめーで人のことコかしといて、そういうコトするか?」
「うるせェ。てめェがいっぺんで俺の手をとれば其れで良かったんだよ。」
「……意味わかんねーよ。」
今度は大人しく俺の手を掴んで立ち上がる銀時。
「よ……っと。」
少しだけ俯いて、視線を合わせないまま。
「――っし。行くぞ。」
掴んだてのひらは、血と砂埃にまみれてざらりとする。
自分と変わらない、まだほんの少しだけ幼さの残る、少年のてのひら。
「……ああ。」
俺たちが目指していた、あの大きな、力強いてのひらには、とても遠い。
「……高杉?」
比べれば、まだずっと幼いてのひら。
「何でも無ェよ。」
なのに、どうしてかいつも、あの人と重なる。
失っても、奪われても、それでも必死に護ろうと、戦う銀時。
「おい……お前のほうが大丈夫かよ、高杉。」
「…………、」
少しだけ柔らかい表情で覗き込んで来る。
戦場で先陣を切る夜叉からは想像も出来ないだろう。銀時の此の表情は。
「フン。」
幼い頃から変わることの無い、銀時の表情。
「てめェよりは、余程な。」
掴んだままのてのひらを引いて、銀時を抱き寄せる。
「――――っオイ!?」
血と砂埃にまみれて、汚れて、傷ついて――――
「だから、」
それでも必死で戦っている。
「てめェでばかり……、」
孤独な夜叉。
「独りでばかり、無茶してんじゃねェよ。」
「…………っ、」
自分ばかりを責めて、自分だけは赦せなくて、総てを抱えてしまおうとする、危うい夜叉。
「おめーだってヅラだって、」
「ああ?」
「辰馬だって、独りで敵陣のド真ん中に突っ込んで行ってんじゃねーかよ。」
不満げに唇を尖らせて反論された。
「てめェ程じゃねェ。」
其れを咎めるようにきつく抱き締める。
耳元でわざとらしく、ぐえ、と呻かれた。
「せめて俺の隣に居ろ。」
「はああ!?」
「そうすれば、みっともなく敵に殺られる前に、俺が止めを刺してやれる。」
「――っぜぇええってーに厭だ!! 誰がテメーの傍でなんぞ戦うか!!」
暴れて腕を振り解かれる。
「っくく。精々、俺に殺られねェ程度に頑張れよ?」
「だからテメーの傍には居ねーって云ったろたった今!!」
「てめェに拒否権なんぞ在ると思ってんのか?」
「……も、ヤダ。マジでお前キライ」
「フン。」
刀を握り直せば、黙って隣に並ぶ。
「せめてこっちの足だけは引っ張らないようにしてくれますかね、総督?」
「っハ、間違っても敵陣で膝なんぞつくんじゃねェぜ、白夜叉ァ?」
互いに挑むように笑んで、睨みあって、地面を蹴る。
全力で。
沢山のものを失った世界。
沢山のものを奪われる世界。
大切なものが、いつ此の手から零れおちるかも知れず、それでもまだ、俺の護りたいものが在る世界。
其れが、俺の傍に在る世界。
――――なら、俺はまだ此の世界で、俺の護りたいもののために、そのためだけに、戦い続けてやる。