SHORT STORY

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 これ以上ないほど、お互いを識る
 理解、信頼、以心伝心
 現実的には、こうだけれども

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 第四百六十三訓・閑話
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 頻発する首斬り事件に気懸かりなことがあって、仕事中にそっと万事屋を訪れた。
 万事屋のふたりの子供たちは不在であることと、沖田総悟という厄介な尾行がついていないことは、しっかりと確認してから。
 玄関の前で携帯灰皿を取り出し、煙草を揉み消す。
 呼び鈴を鳴らすか勝手に入り込むか、少しだけ考えてから、勝手に入った。どうせ玄関に居るあたりから、自分が訪れていることは気配で知れているだろう。居間まであがり込むと、脚を組んで雑誌を読む主に、視線で文句をつけられた。
「……一応、玄関に呼び鈴てモンがついてるんですけど。」
 ついでに口でも。
「どうせ判ってんだろうが。」
「マナーって言葉知ってる? 土方君。」
「てめーにマナーがどうこう云われたくねーよ。それより、」
 言葉を区切って、相手の双眸を伺う。
「どうなんだ?」
 面倒なので、何の用件かは告げずに訊いた。
「……どうなんだ、じゃねーよ。」
 露骨に不機嫌な貌をされる。
 公僕とは異なる独自の情報網を持つであろう万事屋の店主は、耳が早い。
 そして今、自分が追っている首斬り事件は既に四件も発生しており、事件の発生場所はこの万事屋の主のテリトリーと重なる。
 そういう状況で自分が訪れれば、当然用件の察しがついているだろうと、無駄な手間を省いて質問した。ふたりきり、大概のことを解っているであろう相手に気を遣う必要もないと。
 しかし手短にし過ぎたのはどうやら拙かったらしい。その聴きかたは気に食わないと、睨まれる。
「俺じゃねーコトくらい、判ってんだろ?」
「たりめーだ。聴きてぇのはンなことじゃねぇ。」
 追っている事件の犯人は、皮一枚を残して首をおとせるほどの手練れだ。単純に、それを可能とする技術を持つか否かを考えれば、銀時は確かに容疑者のひとりだ。
 あれを可能にするだけの腕をもつ人間は、そういない。
 が、銀時のわけが無い。それは問答する必要すらないことだ。
「じゃあ何で来たんだよ。」
 銀時に伺うような視線を向けるのは、何かを問いたいからではない。銀時が口にしてはくれないだろうことを、勝手に読み取ってしまいたいからだ。
「関わってねーだろうな。」
 本人の望む望まないに関わらず、銀時はよく事件に巻き込まれている。それも、大抵が事件の核心にふれるようなかたちで。
 酔っ払いを狙った辻斬りの犯行。銀時自身もよく酔っ払って、今回の事件の発生範囲をうろちょろしている。既に何らかの形で関わっていても、全く不思議ではない。
「知らねーよ。」
 うんざりしたような云いかただった。
「……そう、か。」
 ほんの僅かな気配。銀時が何かを知っているという、何か隠していることがあるという、微妙な気配を感じる。
 知らないことを問われているからではなく、既に面倒なコトに巻き込まれてしまっていることにうんざりしている、という気配も。
「……何でもイイ。心当たりがあるなら話しておけ。後々、面倒なことになる。」
 口調がつい、職業柄の尋問じみたものになった。
「さっぱりだっつーの。」
 嘘ではない云いかただった。
 ただこの場合は、銀時が何についてそう云っているのかが問題だが。
「さっぱり……ね。」
 相手の言葉を反すうして、煙草を取り出す。
 伊達に長くつきあっちゃいない。飄々として、何を考えているかまるで判らない、いい加減だの適当だのと評されるこの男とは、既に顔を会わせれば大概のことが判ってしまうくらいの間柄だ。
「困ったモンだな。」
「お役にたてなくて申し訳ありませんね。ってコトで、そろそろ帰ってくれる?」
 新八と神楽が帰って来ちゃうんだけど、と視線で外を示される。
 今回不在を狙って訪れたのは、まだ他に聞かせたくない事件の話をする目的があったからだが、銀時とふたりきりになるのには、子供たちには話せない行為が目的の時もある。そのせいだろう。この場所で、明らかに他の人間が居ないタイミングを見計らって会っている状況が、銀時には落ち着かないらしい。
 特に何も聞き出せなかったがしょうがない。
 予想通りだった。
 どうせまた、今回の事件に、どういう形であれ関わっているらしいということも。
 それだけ判ればいい。多かれ少なかれコイツが絡んでいるのなら、こっちはそれを考慮して動きたい。勝手に動くこの万事屋の行動力も影響力も、軽微なものではないから、無視は出来ない。おそらく山崎の仕事が増えるだろう。
「ったく。厄介なモン拾ってんじゃねーよ。」
 本当に、警察でもないのによくもまあそうホイホイと、面倒を拾い集めてくるものだ。
 無意味と知りつつ、注意だけはしておく。
 銀時の腕なら被害者になることはないだろうし、ターゲットが酔っ払いなら、万事屋の子供たちも問題はないだろう。さっさと事件を解決しなければ、次の被害者が出る。銀時が酒を呑み歩く行動範囲での目撃証言を重点的に洗うことにして、万事屋を後にしようとした。
「拾ったんじゃねーよ。」
 背中を向けられた途端、油断したのか、気が緩んだのか。
「…………オイ。」
 ぽろりと、聞き捨てならない言葉が、銀時の口から零れた。
「………………ア。」
 迂闊過ぎるにも程がある。
「あ……いや、手違い、いいいや、間違い! あ〜イロイロと、ホラなんとゆーか。」
 しどろもどろになって、視線が泳いでいる。
「ちょっと屯所まで同行してもらおうか。」
「いやもう知らないから。出て行っちまったから! 行方とかちっとも知らないから!!」
 相変わらず、ボロが出だしたら止まらない。
「何かもうダダ漏れになってんじゃねーか!テメ……最初イロイロと隠そうとしてた頑張りはドコ行ったオイイ!!」
 胸倉を掴んで壁際に追い詰める。
「あ、うん。まぁ……うっかり?」
 上目遣いで、肩の位置まで両手を上げて、降参のポーズだ。
 あっさりとシラを切ることを諦めて降参する銀時に、怒りがこみ上げる。自分でも今怒るべきはソコじゃないと判っている。しかし、どうしても日々、常々、ことあるごとに怒りを覚えていた、銀時のコレに、もう抑えがきかない。
「うっかりじゃねーんだよ! 諦めんのが早すぎんだろ!! つかそういうトコが変な野郎に付け入れられる隙だって解ってんのかてめぇ!!」
 ちょっとメッキが剥がれた途端、容易く白旗をあげてしまうこういう性格が、いかに付け入られ易いのか、本人は自覚があるのだろうか。今回のような割と物凄く重要な事柄に関してすらこのザマでは、他は一体どうなってしまうのか。
「いや怒るところソコォ!!!?」
「他にドコ怒れってんだ!!!?」
「おめー重要事件を捜査中の警察だろうがああああ!!」
 銀時が漏らした内容が確かなら、コイツは事件の最重要参考人どころか、まさに犯人と遭遇し、警察にも知らせずに逃がしたことになる。
 が、そんなコトは大した問題じゃない。
「警察なめてんじゃねーぞ。」
 銀時が犯人と遭遇したからといって、協力してくれるなどとは思っていない。寧ろ、しろとも思わない。
 犯人は何としてでも真選組が捕まえる。
 銀時が今回の事件について何かしら関わったことがあるのか、銀時自身が行動する可能性があるのか、知りたかったのは本当にそれだけだ。山崎をつけて行動を逐一報告させる必要があるか、ないか、それさえ確認出来れば良かった。
「いや、今の土方君の言動から警察なめんなとか云われても、説得力ないからね?」
「おめーの言い訳よりはよほど説得力があるわボケ!」
 イラ立ち紛れについ煙草に火をつけそうになるが、すぐにライターを奪われて止められた。
「ちったぁ我慢しろこのヘビースモーカーが。」
 ポケットにライターを捩じ込んで返される。
「――――ちっ、」
 そんなに煙のニオイが残るのが厭か。
「とにかく、てめぇはこっちの捜査の邪魔さえしないでくれれば、それで良い。」
「じゃあ大人しくしてるから、お宅の地味な監察を使って俺のストーカーすんのは止めてくれよ。」
 それは今回の事件に限らず出来ない相談だった。
「大人しくしてる気なんざ、ちっともねぇだろうがお前は。」
「……バレた?」
 肩をすくめてへらりと笑う。
 絶対にコイツは好き勝手に、自分が動きたいように動くだろう。
「バレバレなんだよ。」
 隠す気もない。隠す必要もない。やりたいようにやるのは、お互い様だ。
「面倒だけは起こすんじゃねーぞ。」
 云いつけて、すぐに反論を寄越そうとした口を塞ぐ。
「――――っ、なに、」
「煙草一本分だ。もうそろそろイライラしてきた。」
「俺の唇はそんなに安いのかオイ。」
「誰がンなこと云った。第一、イライラしてるのは、てめーのそのいい加減さのせいだからな。」
 流石にさきほどの自分の迂闊さには自覚があったらしい。気まずそうに視線を逸らされる。
「おめーが変なコト云わなきゃ隠し通せてたわ。」
「その前からバレバレだったんだよちっとも隠し通せてねーよ。」
 あまりにもバレバレなのは、隠す意味はないと銀時自身が思っているせいだ、ということにしておきたいくらいだ。
 ふと思いついて、素早く動く。
「――――ッ待て!」
 制止されたが、こちらの方が早い。
「ば……っか、」
 頚筋にかみついて吸いあげ、はっきりと判る跡を残す。
「何しやがる!?」
 唇がふれた場所をてのひらで押さえているが、当然、手遅れだ。
 無意味にかみつかれた跡を隠そうとする手を除けると、色素の薄い肌に、鮮やかな赤い跡が浮かんでいた。
「しばらくは消えねーだろ。」
 指先でそっと鬱血した肌をなぞる。
「マジで隠しごとがしてーんだったら、ソレ隠してる時くらいの努力をおおッ!?」
 云い終わる前に、木刀のひと薙ぎ。
「二度と来んなバカヤロオオオオオオオオオ!!」
「――――ッ!!」
 鋭い一撃で、文字通り万事屋から叩き出された。
 バカはどっちだ!?
 硝子が派手に割れる音と共に、落下していく。
 咄嗟に鞘で防いでいなければ、間違いなく致命傷になった一閃だった。
 これについてはお互い様だが、相変わらず容赦がない。
 身体に響く、重い一撃。
「場合によっちゃ死んでんぞ、ったく。」
 それでも二階の窓から落とされた程度だ。何の問題もなく着地する。
 割った窓のことはどう言い訳をするつもりなのだろうか。
 立ちあがって、頬をつたうぬるりとした感触に気づく。
 途中でうっかり額を切ってしまったらしい。割れた硝子にやられたのだろう。だくだくと血が流れていた。
「……ってーな。」
 こんなものはかすり傷だが、流れた血が目に入りそうで鬱陶しい。袖で適当に拭っておく。
 まだ続く出血はとりあえず放置して、我慢していた煙草にようやく火をつけた。
 灰いっぱいに煙を吸い込んでから、これからやるべきことを整理する。
 自分は事件の捜査で、あっちは勝手に事件のことを嗅ぎまわって、お互いしばらくは忙しくなるだろう。
 銀時の尾行を、予定より早めに山崎に指示することをまず最初に決める。
 次に、差し迫って、即座に何とかしなければならない問題が発生している。
 誰のものかを問うまでもない視線を感じるが、振り向きたくない。
 出来ることなら、気づかなかったことにして、このまま此処から立ち去ってしまいたい。
 〈アレ〉をどうやて始末したものか、今はそれが一番悩ましい。
「仕事中にナニやてんでぃ土方コノヤロー。」
 しっかりまいた筈の総悟が、いつの間にか電柱の影から冷たい眼でこちらを見つめている。
「テメーだって仕事中だろうが。何でこんなトコに居る。」
「土方のヤローが仕事中なのにいそいそと何処かに出かけようとしてたんで、後をつけて来ただけでさぁ。」
 悪魔と形容される笑みが、総悟の顔に浮かんだ。
 何故、気づかなかったのか。
 確実にまいた筈だったのに。
 どこか、万事屋に会えるという浮かれた気持ちがカケラでも潜んでいて、感覚を鈍らせてでもいたのだろうか。
 コレを一体どう始末するべきか。
 真選組の頭脳とも称される自分が、どう考えてもロクな対策を思いつけない。
 何だか急に、頭が痛くなってきた。





20131001


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