SHORT STORY

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 季節の行事
 節分、豆まき、恵方巻
 あらゆるコトは
 たいてい口実

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 鬼のゆびさき-前
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 屯所の中庭がなにやら騒がしかった。
 書類仕事に集中するため自室にこもっていた土方は、何ごとか……と思いはしたものの、すぐに無視することに決める。
 どうせ総悟が何かやらかそうとしているに違いないが、気配が独りではなかったから、自分への襲撃ではないだろう。
 なら後で山崎にでも後始末をさせればいい。
 小姓がいるにも関わらず、未だに監察を雑用係として使っている土方はそう考えて、目の前の書類に意識をおとす。
 しかし、無視できない声が耳に届いた。
「……じゃ、…………って、」
 何を言ったのかまで正確に聞き取ることは出来なかったが、その声は間違いなくあの男のものだった。
「そんじゃ、頼みますぜぃ、旦那。」
『ダンナ……!?』
 その総悟の言葉に思わず立ち上がる。
「おい!!」
 スパァンと高い音を立て、勢い良く部屋の障子が開かれた。
 土方の自室に面した屯所の庭には、山盛りにされた何かを取り囲む万事屋三人と、総悟の姿がある。
「あれ、どうしたんですかい土方さん。」
 何をそんなに驚いた様子で、と総悟が土方に声をかけた。
「……だから、毎回毎回、何度も何度も、もうイチイチ聞くのも面倒なんだが、」
「じゃあ聞かなきゃいいじゃないですかぃ。」
「うるせぇ!! なに堂々と部外者を屯所に連れ込んでんだ総悟!!」
 当然のようにそこに居るこの三人の、特にそのうちの一人は間違っても軽々しくココに入って来られては困る人間だというのに。
 しかし総悟はまるで頓着していない様子で答える。
「なにって、用があるから来てもらったに決まってるじゃないですか。」
「そうそう。俺たち沖田君が仕事の依頼があるって云うから、わざわざここまで来てやったんだぜ?」
「自分だって旦那を連れ込んだことがあるくせに、偉そうに説教してんじゃねぇやコノヤロー。」
 ボソリと呟かれた総悟の言葉の後半はすっぱりと無視して、土方は銀時に向き直る。
「どうせ下らねぇ遊びにつきあってるだけだろうが。屯所は遊び場じゃねぇんだ。外でやれ!!」
「外……って、云われても、ねぇ。」
 銀時が肩をすくめて、それは無理、と態度で返す。
「土方さん、今日、何の日でしたっけ?」
 総悟が問うた。
「ああ?」
 日々、仕事のことで頭が一杯の土方に『今日は何の日』と聞いたところで、仕事のスケジュールや締切が巡るだけだ。今日は何の日もへったくれもない。彼にとって今日は明日までに仕上げなければならない書類を必死になって片づける日で、莫迦どもにつきあって遊んでいる場合ではない日、これでしかない。
「節分でしょう、今日。」
「……ああ、」
 云われてからようやく気づく。そういえばここ数日、街中で見回りをしていると恵方巻の宣伝をするのぼりやチラシを多く見かけた。ちょっと前に正月が来たばかりだと思っていたら、もうそんな時期になっていたのだ。
「ってことで、鬼を追い払わないといけねぇんで、」
「……他所でやれ。」
 土方はこの時点で今後の展開について色々と察しをつけたが、一応、云ってみた。
「なに云ってんですか、土方さん。」
 ついでに彼らの足元に用意されている、風呂敷に包まれた大量の何か、どうやら粒状のものであるらしいソレが気になる。
「ああ、コレですかい?」
 総悟がすぐに視線に気づいて、包みを解いた。中からざらざらと、豆と、同じくらいの大きさの豆にしては色がオカシイ物体が出てきた。
「節分といったら豆まきじゃないですか。」
「ああ、そうだな。〈豆〉まき……だな。」
 厭な予感は的中だ。
「もちろん普通の豆も用意したんですが、なんせ相手が相手ですからねぃ。いつまでも真選組に居座るタチの悪い鬼を追い払うにはこれくらいしなきゃならねぇと思って、ちゃんと豆状の鉛弾も用意しておきました。ささ旦那、どっちでも好きなほうを使ってくだせぇ。」
「〈ちゃんと〉の使い方がオカシイだろうが!?豆状の鉛弾ってどういうことだオイイ!!!?」
 豆に混じる鉛色の物体は、要は単なる鉛の弾だ。
「今日はマジでてめーらの遊びに付きあってる暇なんか……て、ちょっと待て。」
 土方は即座に回避行動に移れるよう身構えつつ、頬をひきつらせた。
 特殊警察副長の名は伊達じゃない。相手が銀時だろうと総悟だろうと、豆(鉛のヤツ含む)を投げられたくらい、全部避けて、叩き落せばいいだけの話だ。相手にしなければならない時間がもったいないだけで、大した問題は無いハズ……だった。
 しかし、豆まきにしては準備がおかしいヤツがいる。
「チャイナ、何してやがる。」
「何って、豆まきの準備ヨ。」
 神楽が傘に仕込まれた銃に豆(鉛のヤツ)を充填しつつ、豆(これも鉛のヤツだけ)を手元にごっそりと引き寄せている。
「手加減無用ですぜ。掛け声は鬼は外! だけで十分でさぁ。」
「簡単な依頼アルな。これで晩の恵方巻が食べ放題とは。」
「ここ何日か金欠でマトモに食ってねぇからな。土方君、悪ぃけど、ちょっと本気でいかせてもらうぜ?」
「…………おい、」
「前金でさっき、沖田君にパフェご馳走になっちゃったからさ。」
「おい、よろず……や、」
 銀時が真剣な表情で豆(鉛のヤツだけ)を大量に抱え込み、戦闘態勢を整える。
 彼らが撒くつもりらしい豆の量がおかしい。その量は既に〈撒く〉量ではない。単なる一斉掃射だ。薙ぎ払え! とか云うやつだ。
「何個まく気だテメェら!? 豆まきは自分の年の数だけって決まってんだうが!!」
 その前に節分で鉛の豆はまきません……という新八の突っ込みは、誰の耳にも届かない。
「アレ、土方君知らなかった? 俺、今年で十万二十七歳くらいなんだよね。だからここにある豆、全部投げても足りないんだよ?」
「どこのデーモン閣下だお前は!!!?」
「ああ、そういえば私も実は、十万と十四歳だったアル。」
「土方さん、今まで隠してたんですが、実は俺も十万十八歳だったんですよ。」
「設定にノってんじゃねーよてめーら!!」
「それにしても、こんなに豆いっぱいあったら手で投げるなんて面倒くさいアル。これなら全部こっちから打ったほうが早いアルな。」
 神楽が手にした豆(全部鉛)を投げ捨てて、傘の先端を土方に向ける。
「だったら俺も、こっちでいかせてもらいやすぜ、土方さん。」
 総悟がどこからか取り出したバズーカを土方に向けて構える。
 土方のこめかみを、おかしな汗が伝った。
 万事屋唯一の良心、新八はひたすら申し訳無さそうな表情をするばかりである。この面子が相手では、彼にストッパーとしての役割は期待するだけ無駄だ。
「んじゃ、鬼は外〜、」
 銀時のゆるい掛け声で、土方に向けて一斉に豆(鉛のヤツだけ)が放たれる。
「ちょ……と、待てテメェら!!」
 総て避けきるが三対一では分が悪過ぎる。
「いい機会でさぁ土方さん。何なら真選組からといわずこの世からも居なくなってくだせぇ。」
「アイツさえ亡き者にすれば今日は恵方巻が食べ放題アル!!」
「お前らあああああああああ!!」
 爆音と悲鳴。
 障子が吹っ飛び、土方の机から書類が跳ねる。
 新八がそっとフェードアウトして山崎を呼びに行ったが、誰も気づかない。
「今日の晩飯いいいいい!!」
 叫んだ銀時がちょっと本気を出す。
「イテ……ってめ、今本気で投げやがったな!?」
「土方君の尊い犠牲は忘れねーよ?」
「ふざけろ!何で俺がてめーの晩飯ごときのために犠牲になんねーといけねぇんだ!!」
「三日ぶりのマトモなメシィイイイイイイ!!」
「人の話を聞けえええええええええええ!!」
 何ごとかと駆けつけた真選組の隊士数名が巻き込まれる。
 途中から何故か参加者が増えて状況は完全に乱闘状態となり、豆まきという名のただの弾の打ち合いは、土方が本気でキレるその瞬間まで、しばらく続いた。





20140201


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