SHORT STORY

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 あの優しさはまやかしだ
 乱暴、粗暴、ついでに凶暴
 あっちがホントのお前でしょ

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 鬼のゆびさき-後
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 土方をターゲットに始まった豆まきは、隊士を巻き込んでの乱闘と、神楽と総悟の豆の打ちあい(というか後半はただの喧嘩)に発展し、屯所の中庭をまずまず破壊してようやく終わった。
 土方は後始末の総てを山崎に押しつけて自室に篭り、用意された恵方巻をたらふく食べた神楽は暴れ疲れたせいかすっかり寝入ってしまい、銀時は姿を消していた。
 こんなんでも女でさぁ。屯所なんかに泊めるわけにはいかねぇ。
 寝こける神楽を見下ろしてそう云った真選組の一番隊隊長は、職権乱用で車を用意し、ソレで帰れと新八に告げた。
 予想外に律儀な彼は、神楽を決して屯所に泊めさせる気はかったらしい。
 ついでに新八は銀時がどこかへ消えてしまい、いつまでも戻らない、と行き先の心当たりを訊ねたが、爛れた大人の事情だか情事だかには関わりあいたくねぇや、と吐き捨てられた。
「お騒がせして申し訳ありません。土方さんにも、色々と申し訳ありませんと、伝えておいてください。」
 後始末に追われてぐったりした表情で見送ってくれた山崎にぺこりと頭を下げ、新八と神楽のふたりだけが屯所を後にした。

 その頃、主が不在にした隙に部屋に忍び込んでいた銀時が、土方に見つかっていた。
「……なに勝手に俺の部屋に入り込んでやがんだてめぇは。」
「あれ、おかしいな。さっき追い払ったハズの鬼がなんでこんなトコロに居るんですか?」
「俺の部屋だからに決まってんだろ。ちょっと厠行ってただけだ。」
 本日の土方はすこぶる機嫌が悪い。仕事を中断されただけでも十分なのに、完成していた書類を豆まきに託けた乱闘で何枚もダメにされ、大量の豆(とゆーかもうただの鉛の弾だった)をいくつもぶつけられた。
「てめーはまだ帰ってなかったのか。いい加減もう仕事の邪魔をするんじゃねぇよ。」
「仕事仕事って、おめーはホント仕事のコトしか頭にねーのな。」
 銀時は部屋で見つけて手にした薄い紙の束を、トントンと机にあてて整える。
「――――おい!? その紙……いや、書類、」
「あ、気づいちゃった? さっき始末し損ねた分なんだけどさ、これも今ココで処分してやろうと、」
「おいいいいい!!!?」
 叫んだ土方が物凄い勢いで銀時の手から紙の束をひったくる。
「コレ……俺がさっき無事なの選んで救出した書類じゃねーか!!」
「ちっ、」
「て……っめ、舌打ちしてんじゃねぇよ。これ以上やられたらマジで取り返しがつかねぇんだぞ!!」
 土方は時計を見て、やや焦りながら舌打ちした。片づけなければならない仕事はまだ山ほどあるというのに、時間は止まってはくれない。
 しかし銀時からすれば、そんなことは知ったこっちゃない。むしろダメにしてやるつもりで暴れていたのだから。
「だって銀さん、誰かサンが仕事仕事で追い詰められてるみたいだから止めをさしに来やせんか〜って、誘われてここに来てたワケだからさ。最後まで全うしねぇと?」
「誘われてんじゃねぇよマジでぶっ殺すぞてめぇ。」
 煙草に火をつけて土方は机に向かう。
「あれ、あそこまでダメにされて諦めないんだ。まだ頑張るんだ。」
「たりめーだろ。てめぇ仕事ナメてんのか。」
 背を向けられた銀時は土方の背に圧し掛かる。
「俺がココに居るのに、まだ仕事出来るとか思っちゃうんだ。」
「……銀時、」
「うん?」
「豆をぶつけられた処だけじゃなくて頭も痛くなってきた。ちょっと仕返しさせろ。」
「え、」
 振り向いた土方のてのひらが銀時の顔面をしっかりと掴み、そのまま渾身の力で握った。みしみしと音をたてて指が頭蓋骨に食い込む。
「いて、ちょ……それマジで痛い!! 土方君ちょっと!!」
 頭から押し倒されて、ガツンと後頭部を畳にぶつける。
「こっちがおめーらのせいでどんだけ痛い思いさせられたと思ってやがる!!」
「だからってコレはちょ……イテ、マジで死ぬ!! 指めり込んでる! 脳ミソ潰れる! ごめんって、うわ、イテ、マジ痛ェ!!」
「ごめんで済むかこの莫迦!! そのまま畳にめり込んじまえ!!」
 土方の苛立ちは、あからさまに手の力になって表れる。
 ちょっと本気で痛くなってきた銀時は、抵抗するのを止めてぽつりと呟いた。
「……だって土方君、最近ちっとも構ってくれねぇんだもん。」
「ああ?」
「万事屋は最近まるで依頼がこねぇし、そういう時に限っておめーとはちっとも会えねぇし、」
「だからって何でこういうコトになるんだよ、」
 銀時はことさら悲しそうな声で続ける。
「神楽に譲ってたら俺の食う食料が無くなっちまって、もう何日もちゃんと食べてなくて腹へって死にそうで、」
 今はもう満腹だが、空腹だった時の気持ちを思い出してわざと辛そうな声を出す。
「ンな時に誘われたらさ、我慢できるワケねーじゃん?」
「…………要は、貧乏に負けたワケか。」
「うるせ。」
「どんだけダメな大人だよてめーは。」
 ヘナヘナと力が抜けていく。自らのことではないが情けなくて、土方は怒る気力を挫かれてしまった。
「神楽と貞春の食う量を知らねーからンなこと云えるんだっつーの。」
「だからって豆まきに託けて人の仕事場襲撃した挙句に書類抹殺しようとか、鬼は一体どっちだよ。」
「沖田君だな。」
「てめーだよ。」
「銀さんはとっくに引退済みです〜。」
「ことあるごとにテメェで昔の名を引っ張り出すくせになにが引退だ。」
「あれ、見なかったことにしてくれるんじゃなかったんですか、副長サン?」
「……そうしてほしいならな、もっと大人しくしてろ。」
 特にその減らず口をだ……と、土方は銀時に口吻けた。
「問題児は総悟だけで十分なんだよ。いい年こいて、一緒になってんじゃねぇよ。」
 悪戯を咎めて、鎖骨に歯をたてる。
「……仕事、残してるのにする気なんだ。」
「てめぇでまとわりついておきながら、」
「まとわりついてたダケですけど?」
「じゃあさっきからその手はドコをさわってやがる。」
「さあドコでしょう?」
 つれない言葉を吐きながら銀時は土方にじゃれる。
 まるで猫だ。
 髪に指を差し込んで頭を撫でてやると気持ち良さそうで、耳朶に唇をよせるとくすぐったそうに身を捩る。ヤメロと言いながら、その表情はちっとも厭そうじゃない。猫にそうするようにして、指先で肌をふわふわとたどる。反射のように銀時の身体がピクリと跳ねた。
「なあ、怒ってんなら……もうちょっと、ソレらしく、さわってくれてイイんだ、けど。」
「あぁ?」
「ンなに、やさしくじゃなくてイイ……、」
 肌が土方のてのひらの体温を感じて、もうすぐ撫でてもらえると思ったのに、指先だけが延々と確かめるように肌を辿っていく。肘にふれて、その先を確かめるように手首に向かって、皮膚の薄い部分を大切そうになぞられる。
「ヤメロ、マジで。くすぐった……い、」
 たまんねぇ感じになる……とは、口にだせば相手が調子に乗る。だから、絶対に言わない。
「なあ、土方、」
 思わせぶりに唇を撫でる指先がたまらない。
 土方の指先がふれた処から、どうしようもない甘い痺れが身体の奥に向かっていく。
「……ンとに、てめーは、身体と性格が正反対だな。」
「ちげぇ、誰が、」
 別に苛めて欲しいわけじゃない。ただ単に、強引にされる方が土方らしくて好きなだけだ。
 そんな優しく、羽にでもふれるようなふれかたをされるのが落ち着かないだけだ。
「待て、や……だ、ソレ、」
 四つん這いにさせられて、項に土方の唇がふれるだけのキスをおとす。うっすらと唇をひらかれて咬みつかれると思ったのに、また肌を愛しむようにして、優しく唇だけで肌を弄られる。
 胸の突起を潰して捻りとろうとする指先の動きだけが少し乱暴で、他に与えられる刺激との落差に眩暈がした。
「ひ……じかた、」
「別に、俺はもう怒ってねぇよ。」
 至近距離で囁かれる土方の声は腰にクる。低い音で耳元に囁かれるとたまらない。
「酷くなんかしねぇ。」
 どこか愉しそうな土方の声。
 この男はやはりタチが悪い。
 肝心な処はなかなかさわってくれない。いつまでももったいぶって耳だの腰だのを撫で回されて、乳首だけはきつく吸いあげられたりするとじれったい。我慢も限界でつい腰を突き出すと、まだだと押さえつけられる。
 ようやく土方の手が下に伸ばされたかと思ったら、硬く主張した器官は放置だ。
 だったら自分でするからと、勃ちあがった自身を握ろうとした手も封じられ、受け入れに必要な部分だけが丹念にほぐされる。
「ヤ……な、やつ、だな、てめぇ、」
「どこがだ。」
 さっさとして欲しい。そうやって土方の指が身体の中で蠢くのも厭じゃない。けれど、いつまでもそればかり繰り返されて、いつまでも待たされるのは辛い。
 土方は銀時がそう思っているのを判っているから、余計に先を急がない。
「そういう……とこが、だよ、」
「心外だな。」
 そう云ってニヤリと笑う土方の表情は、露骨な『ざまぁみろ』だ。
 じらしてねぇでさっさとしろと思うのに、意地悪な男の笑みに銀時はゾクリとさせられた。
 ……ギャップ萌えってヤツかもしんねぇ。
 ふと思って、心の中で笑いそうになる。
 普段のヘタレぶりとはまるで違う土方をみられるから、ああいう悪戯がやめられない。怒鳴るよりも殴るよりも、この行為で焦らされる方が辛い俺を、土方は知っている。こっちで〈仕返し〉をしてもらえるから、つい繰り返してしまう。
 とことん追い詰めて、簡単には楽にしてくれなくて、それをさも愉しそうにする。この時の土方はいちいち限界ギリギリまで人の身体を追い詰めて、なかなか解放してくれない。される側は完全に獲物の気分だ。
 けれど、それも気持ちイイから止められない。
「――――っあぁ!!」
 ようやく土方が硬く滾った屹立を衝きたててくれたが、銀時の前は弄ってもらえなかった。
 中を行き来する動きは激しいのに、いざとなると肝心な処を外されて、自分でするのも咎められる。それでもジリジリと追いやられてイきそうになると、途端に動きを止められる。
「や……だ、……って、」
 解放できなくて悶える。与えられる快楽が身体の中に溜まり続けるのを、首を振って必死に耐える。場所が場所だから大きな声は出せない。銀時は唇を咬んで、自らの手首を握り締め、声を殺す。
「……掴むなら、自分の腕は止めとけ。」
 中を穿つ動きを止めて、土方の手が硬く握り締めた銀時の拳にふれた。
「てめぇ、自分の腕力がどんだけか解ってんのか。」
 いたわりを含んだ柔らかい声が銀時の耳に響く。するりと肌をなでてから、きつく握り締められた銀時の拳をほどいて、土方はその手を布団に縫いつける。
「手首、痕が残んだろ。」
「――――っい、あ!」
 休められていた刺激が、再び身体の中を襲う。
「……っふ、く……あぅ、」
 何も掴まるものがないと、耐えられない。シーツを握り締めたくらいでは、暴れる快楽を抑えられない。
 びくびくと跳ねるように、身体が勝手に動いてしまう。
「……っだ、や、あ!!」
 グリグリと奥の弱い処を擦られて、一度も前を弄ってもらえないままイってしまった。
「……っは、ぁ、――――っあ、」
 自ら出した体液が肌を汚す。
 痙攣する銀時の身体を見下ろしながら、土方は動きを緩めた。
「勝手にイくんじゃねぇよ。こっちはまだだってのに。」
 まだ、あからさまに余裕があるから、困る。
「知る……か、てめぇで、そうした、くせに、」
「この程度でイけるとは思ってなかったんだよ。」
「ナニが、このていど――――っあ、」
 したり顔で云ってから、土方はまた動き始めた。
「や……待て、まだ、」
「待ってられねぇ。」
「……っやめ、ぅあ!!」
 揺さぶられて、マトモな意識を保っていられなくなる。
「ひ……や、う、」
 ぐちぐちと、繋がった部分から聞こえる卑猥な音と、荒くなる土方の吐息ばかりが耳につく。
 何も考えられなくなる前に、辛うじて銀時は時計の針の位置を確認した。
「ひ……じ、かた、」
 縋りついて、もっと、と耳元で小さくねだる。
 あとどのくらい続くのかを考える余裕は、もうなかった。



 早朝、熟睡する土方の隣りから銀時はそっと抜け出す。
「じゃ、コレがこっちの依頼料でさぁ。」
「毎度あり。んじゃあ俺は帰るから。」
 銀時は個人的に受けた、もうひとつの依頼の報酬を受け取って、懐にしまった。
「それにしても毎回毎回、どうしてこうも爛れた方法ばっかりなんですかね、旦那は。」
 沖田総悟からのもうひとつの依頼は『土方の熟睡』。
 彼が知る限り、いつもは眠りの浅い土方を深い眠りにおとせる唯一が銀時だ。その過程でよく子供にはとても聞かせられないような行為が交じるが、効果は抜群。屯所内とはいえあの鬼が、声をかけられるまで隊士の接近した気配に気づかぬことすらあった。
「何で爛れてたって知ってんのキミは。」
「もおイけねぇとか、助けてイヤだとか、さんざん啼いてたじゃねぇですか。」
「……聞いてたのかよ。」
「ンな趣味はありやせん。」
「……んのヤロウ、」
「けど、そんなコト云ってしがみつかれてた相手が翌朝にはこんなケロっとしてるんじゃ、土方さんじゃなくても憐れですぜぃ。」
「一応、ツライはツライんですけど?」
「うぜぇノロケはききたくありやせん。」
「……ま、今この瞬間なら土方君は熟睡してると思うよ。すぐに気づくと思うけどね。」
 後はお好きにどうぞ、と銀時は手をふって屯所を後にした。
 ツライと云ってはおきながら、軽い足どりはすっかりいつもの万事屋銀ちゃんだ。
「……ンとに、旦那はタチ悪ぃや。」
 総悟は心地良い眠りを貪っているであろう土方の寝室に向けて、いつものバズーカを構えた。
「っつーコトで、逢瀬に色ボケた上司をスッキリさせてやるのも部下の務めですからねぃ。恨むんだったら旦那を恨んでくだせぇ土方さん。」
 土方の心身に最もダメージを与えられるであろうこの瞬間に、容赦ない一撃を叩き込むために。





20140201


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